組織・経緯・理念(Who are we?)

1. JAFCOFの組織(2017年4月現在)

JAFCOFメンバー

研究代表者
中澤秀雄 (中央大学法学部教授、政治社会学専攻)

研究顧問
村串仁三郎(法政大学名誉教授)友子研究で著名な経済史家
正岡寛司 (早稲田大学名誉教授)・故・藤見純子(大正大学教授)
      家族社会学者、常磐炭砿と離職者の研究を30年間継続
故・布施晶子(札幌学院大学前学長)
      家族社会学者、昭和50年代に夕張総合調査を故・布施鉄治北海道大学教授らとともに実施

研究分担者
玉野和志 (首都大学東京都市教養学部教授、地域社会学)
大國充彦 (札幌学院大学社会情報学部教授、地域社会学)
嶋崎尚子 (早稲田大学文学学術院教授、家族社会学)
西城戸誠 (早稲田大学文学学術院教授、環境社会学)
新藤慶  (群馬大学教育学部准教授、教育社会学)
島西智輝 (東洋大学経済学部教授、経済史)
木村至聖 (甲南女子大学人間科学部准教授、文化社会学)
森久聡  (京都女子大学現代社会学部、准教授)
畑山直子 (早稲田大学文学学術院招聘研究員)

学芸員
石川孝織 (釧路市立博物館、学芸員)
井上博登 (赤平市教育委員会社会教育課社会教育係)

大学院生・OD
西牟田真希(関西学院大学社会学部、非常勤講師)
平井健文 (北海道大学)
清水拓  (早稲田大学)
笠原良太 (早稲田大学)

2.JAFCOF設立の経緯とこれまでの成果

 2.1 JAFCOF設立の経緯
奔別炭鉱跡

研究代表者の中澤は、札幌学院大学赴任当時(2000-2003)に故・布施鉄治氏の『夕張調査』関連資料の整理を担った経緯から、空知旧産炭地に関心を持っていた。2005年に出版した単著『住民投票運動とローカルレジーム』で描写した新潟県巻町では「まちづくり」が未完に終わっていたこともあり、北海道では腰を据えて地域再生に関わっていきたいと考えていた。布施調査資料の整理を続ける中で夕張市が破綻、それに続くNPO「炭鉱の記憶推進事業団」の立ち上がりの時期に三笠・美唄の市民活動、空知の学芸員などの人々との関係が深まり、札幌時代の仲間の研究者とともにこのテーマに関わる覚悟を固めた。幸いなことに、常磐炭砿と30年以上関係を継続してきた早稲田大学のグループも趣旨に賛同して加わってくれることになり、7人の研究者で「旧産炭地研究会」を結成した(2008年7月)。研究会では3つの使命を長期的に追究する。

  1. 旧産炭地域における(広い意味での)炭鉱遺産を通じた地域再生に関する調査研究および実践
  2. 炭鉱社会とその後のコミュニティに関する社会調査を通じた、旧産炭地の歴史的経路に関する国際・国内比較
  3. 20世紀資本主義の証言者」としての旧産炭地の生活史の発掘と集合的記憶の伝承

なお、この間に英国南ウェールズ地域の炭鉱研究者や学芸員との関係が構築できた(2008年3月に彼らを招聘して札幌学院大学でワークショップを開催)ことも、研究チームの構築を後押しする力となった。

旧産炭地研究会(JAFCOF)は顧問を含め陣容を拡大して、2008年10月に文部科学省科学研究費補助金への申請を行い(研究課題「旧産炭地のネットワーキング型再生のための資料救出とアーカイブ構築」)、さいわいにも2009年4月から5年度にわたる交付内定の通知をうけた(5年間の総額は直接経費で3400万円程度)。

また、Walesとの二国間交流に関しては、日本学術振興会、英国学士院(British Academy)、大和日英基金(Daiwa Anglo-Japan Foundation)およびSwansea大学、札幌学院大学、早稲田大学からの助成を受けた。

 2.2 JAFCOFこれまでの成果

3.に引用した各種申請書にあるように、JAFCOFはこの5年間の活動領域として次の4点を定めている。①国内外のネットワーキングのために、この分野に興味をもつ若手研究者や学芸員を糾合すること、②資料の統合とアーカイビングの意義を訴えるためにシンポジウム開催や論文執筆・出版を行うこと、③空知を始め旧産炭地で散逸しつつある資料整理や統合作業を行うこと、その結果として何らかのアーカイブズが構築されること。 ④旧産炭地の研究を活性化させること。具体的には、旧産炭地における生活史の聞き取り、国際比較やアーカイブズによる地域再生の研究を行うこと。 我々に託されたこれらの使命のそれぞれについて、過去2年間に挙げた成果や進行中の取り組みについて以下で列挙する。

①  国内外のネットワーキング

日本国内の主要な炭田に関わる研究者・実践家・学芸員をネットワーキングする取り組みは順調に進展しており、石狩(中澤・玉野・西城戸・新藤・大國・井上・木村・西牟田)・常磐(嶋崎・澤口)・釧路(村串・井上)・宇部(山本)・三池(富永・西牟田)・高島(木村・井上)の各炭田に関係を持っている。経済史や社会教育の研究者を含めた総合的チームとして、地元の学芸員や元炭鉱員グループなどとの関係構築も順調に進んでいる。残された課題は筑豊炭田および九州大学との関係構築である。また国外に対しては、3年間にわたるシンポジウム等の交流を通じて南ウェールズとの信頼関係を構築することができた。共同で日英比較論文を執筆する準備を進めている。

また、日本側から学芸員を半年程度、南ウェールズに派遣するインターンシップ・プログラムの具体化に関して相談を進めている段階にある。

② シンポジウムやイベントを通じた活動と意義の広報

シンポジウムは5回にわたって開催。

空知シンポジウム2009
フライヤー

札幌学院大学シンポジウム 2008年3月 南ウェールズから研究者・学芸員3名を招いて開催。成果は『社会情報』18(2)に掲載

美唄・岩見沢シンポジウム 2009年8月6-7日 NPO法人炭鉱の記憶推進事業団と共催。成果は『社会情報』19(2)に掲載

Swanseaシンポジウム 2009年9月11日 スウォンジー大学にて開催。中澤・吉岡・嶋崎・澤口・井上・木村・西牟田が報告

早稲田シンポジウム 2010年7月10-11日 日本側とWales側が、地域再生や社会教育に関して比較の成果を報告

Comparing Coalfields in Britain and Japan Symposium 2011年3月 @Gregynog, Powys, Wales

③ 資料整理と統合

石炭・炭鉱関係資料は広範囲に散在しているため、JAFCOFでは独自に所在情報と書誌情報を統合して『文献総合目録』および『炭鉱関連用語集』の作成作業に取り組んでいる。我々や、協力関係にある「NPO炭鉱の記憶推進事業団」岩見沢マネジメントセンターが入手した貴重な文献については電子化(PDF化)して保管することも適宜行っている。また北海道の炭鉱関係資料を保有する慶応義塾大学・大原社会問題研究所・釧路市立博物館などとも必要に応じて協力できる体制を整えつつある。常磐に関しては既に福島大学・早稲田大学が必要なアーカイブを構築している。一方、資料整理が行き詰まっている山口宇部では、我々の活動に対して地元から期待が寄せられている。

JAFCOF井上 新聞記事
(2010.9.16 北海道新聞)

なお、大原社会問題研究所に夕張在住の葛岡章氏から寄託された北炭公判関係資料は未整理のままであったが、2010年5月に大原側と契約を結び、JAFCOFが整理を引き受けて目録作成を終了した。また、同年8-9月には赤平市にメンバーの一人、井上博登(早稲田大学大学院生)が長期出張し、未整理のままになっている市役所保有資料の電子スキャン・住友赤平資料のインデックス化などに、元炭鉱マンの指揮のもと取り組んだ(添付新聞記事)。

④ 旧産炭地の研究

①~③と密接に関係するが、旧産炭地研究そのものを再活性化してゆくことも重要な責務である。別ページに列挙したような研究成果が既に出版されているが、今後とも国内外の産炭地比較、生活史の聞き取りなどを通じて成果を産出していきたい。なお、赤平市の元炭鉱マン9名程度への継続的な生活史インタビュー作業を2009年から開始しており、その聞き取り成果は2010年度中に冊子としてまとめた。

その他、産炭地の変化をビジュアルに表現するために、国勢調査データを用いた地域の変遷の描画、google map上での炭鉱関連施設の表現、炭住変遷地図の作成、といったプロジェクトを、一部外部委託しながら進めている。また国際比較作業のために、日本語で書かれた代表的な炭鉱研究文献の英訳作業にも着手している。

今後3年度に関しても、①~④の事業を継続することで、旧産炭地研究および研究会の活動を広く認知してもらい、資料救出・保存・アーカイビングの実を挙げていきたいと考えている。なお科研費補助金は2014年度末でいったん期限切れを迎えるが、その後の5年間についても活動を継続するべく、2013年には新しい申請を行う予定である。そのほか適宜、財団助成金などに応募して研究会としての活動資金を確保していく。

3.JAFCOFの理念:アーカイブズ(文書等が蓄積された物理的場所)によって何が変わるか

我々の取り組んでいるのは一言でいって「アーカイブズ運動」である。単なる「研究者にとっての意義」に留まらず、アーカイブズは地域のために何ができるのか。以下に記述するように、まずは3点の意義があると考えている。

 3.1 アーカイブズに収録された資料によって地域の自画像を描くことができる

地域が力を発揮していくためには、足下を見つめ直さねばならない。過去の歴史に目を背ける者は、未来にも盲目になる。良い点も悪い点も含めて地域の等身大の自画像を描くことは、高度成長期日本が忘れてきた取り組みであるが、近年は「地元学」として各地に定着しつつある。アーカイブズはもちろん、「地元学」を展開していく上でなくてはならない存在である。地域住民も、アーカイブズによって地域内の様々な組織や場所、自分の家族、そして日本における石炭やエネルギーに関する理解を深めていくことができる。歪みのない自画像を描くことは、地域再生の十分条件ではないが必要条件である。

 3.2 アーカイブズ活動それ自体が、関係を編み直し、人を集める拠点となる

アーカイブズは、その対象に興味をもつ人が最初に訪れる場所であり、その存在が認知されるほどに広く訪問者を呼び込む拠点となりうる。破綻した夕張市観光のなかで、石炭博物館のみがコンスタントに人を集めていることが、その証拠である。また今日のアーカイブズはネットワーキング活動(outreach)を基本的な機能の一つとしているので、国内外の旧産炭地がアーカイブズを媒介に交流を深めるこができる。その意義は過去3年間の我々の歩みが実証している。われわれの悩みは、このような意義が日本国内では十分理解されているは言えず、またアーキビストという職業が確立していないことである。この点がクリアされない限り、開発主義とは違った形での地域再生は長期的に果たし得ないものと考えている。

 3.3 アーカイブズは社会教育の拠点として、長い目でみた地域再生に貢献する

上記の点とも関係するが、21世紀における地域再生とは、夕張が陥ったような開発主義モデルではなく、人材と教育に投資し、地域内資源を通じて地域経済循環を作りだしていくものでなければならない(いわゆる内発的発展・湯布院モデル)。この場合の人材教育は、既存のパッケージ化・画一化された学校教育ではなく、地域の文脈に即したものでなければならない。そのための拠点として、アーカイブズは大きな役割を果たす。このような社会教育の仕組みは南ウェールズ地域が脱工業化社会に適応していく上で重要な機能を果たしたところであり、日本としても学ぶべき実践である。