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研究課題「旧産炭地のネットワーキング型再生のための資料救出とアーカイブ構築」
(国立情報学研究所の該当ページ→https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21243032
1.これまでの研究成果
論文
- 2009年9月 『理論と方法』45号: 中澤秀雄ほか「社会調査のアーカイブズ学の必要性」
- 2009年3月 『社会情報』18巻2号: 『研究会報告』 クリス・ウィリアムズ「南ウェールズ産炭地、その歴史と再生」他
- 2010年2月 『「夕張調査」資料集成――布施鉄治編「地域産業変動と階級・階層」関連調査資料コレクション』科学研究費成果報告書
- 2010年3月 『社会情報』19巻2号 『研究会報告』中澤秀雄「産炭地研究の新たな課題--立坑櫓が巻き終わったあとに」他
新聞記事
- 北海道新聞2010/9/16空知版
- 2009/8/8,9北海道新聞記事
2.申請書/成果報告書抜粋
以下は、日本学術振興会(文部科学省科学研究費を所管する独立行政法人)に提出した「計画調書」(平成20年10月)、採択決定後毎年度に提出する「申請書」(各年5月)、同じく毎年度に提出する「成果報告書」(各年3月)からの抜粋である。
平成21年度申請書「研究目的」
本研究プロジェクトは、実績を挙げてきた常磐旧産炭地の総合研究を、北海道空知など国内類似地域との比較へ、さらに英国南ウェールズとの協力のもとに国際比較へと、広げていくための基盤作業である。散逸の危機にある空知の産業遺産資料を救出統合し、地域再生を目指すアーカイブ学的成果を産出する。平行して国内旧産炭地の研究者・実践家のネットワークを確立し、次の5年間で本格的な旧産炭地の比較歴史社会学へと移行できる態勢を整える。具体的な作業としては、当該自治体が現在持っていない時系列的な統計地理データの作成、キーパーソンへのアクセス、離職者の所在確認、文書資料の捜索・複写・整理、というような地道な作業が大部分である。しかし本プロジェクトが進展すれば、空知地域における炭鉱社会の盛衰に関する膨大な文書・電子資料が統合されるはずで、「炭鉱の記憶」アーカイブとして公開できる産業遺産の一つになるので、比較研究と再生実践への枠組み・観点・戦略に関する議論を、現地の人々とともに重ねていける。真の地域再生とは、維持費のかかるハコモノを作り続けることではなく、地域の歴史と記憶に基づくソフトと人材を育て、他地域とネットワーキングしていくことであると我々は確信しており、本プロジェクトはそのための試金石である。
なお、旧産炭地間の比較を組織化し、海外比較まで潜在的射程を持つ研究課題を実現したのは本チームが最初である。これまで旧産炭地研究は地域特性に応じ、地元大学が個別に取り組む傾向があり、その総合化が図られるだけでも刺激的な出来事である。旧産炭地が破産状態にあえぐなかで、緊急性と意義のある取り組みでもある。現地のNPO等と様々に協力しつつ、直接社会にインパクトを与える新しい研究モデルでもあり、旧産炭地域のみならず地域再生一般にとってノウハウ・実績・ネットワーキングの面で大きな貢献が期待できる。なお、全国各地から博士課程の大学院生または博士論文執筆中の研究者が多数参画することも特徴であり、若手研究者の養成という意義も大きい。
平成21年度申請書「本年度の研究実施計画」
上記の研究目的から、散逸しかねない資料の救出、研究グループ自前での(電子)アーカイブの構築、地域概況の時系列的把握のための統計的・地理的データの作成などが5年間を通しての課題である。それを踏まえつつ平成21年度は、作業の全体像や方法論を掴み、空知の概況を把握する。常磐研究で蓄積されたノウハウを投入しながら、(1)炭鉱関係者の所在把握開始、(2)キーパーソンへのアクセス開始、(3)時系列的な地域変化の概況を掴む試行錯誤、(4)救出すべき資料の優先順位をつける、ところまでが初年度の作業になる。
- 関係者の所在把握の準備作業 炭鉱で働いていた人々が離職後どこに移動したのか探るための、手づるを見いだしていく。研究協力者や顧問にも情報提供をお願いし、関連イベントのたびに参加市民に尋ねるなど、関係者所在把握のノウハウを蓄積していく。
- キーパーソンへのアクセス 資料や関係者の所在把握を第一の趣旨にしてキーパーソンにインタビューすることも重要である。自治体・労組・会社・商工会議所などの役職にあった人々へのアクセスを開始する。救出すべき資料の情報が、そこでさらに浮かび上がってくる可能性もある。
- 時系列的な地域変化の概況把握 時系列的な地域変化を把握し、地図・年表・展開図などの形で表現することが目的達成のために欠かせないが、空知では旧炭鉱会社の存在が大きすぎ、自治体はこれらの資料を殆ど作成していないという共通した傾向がある。したがって、国・道などの統計資料、新聞記事、救出した資料、インタビューなどから再現していく必要があり、この作業は5年間を通して続けられねばならない。この作業を札幌の調査会社に一部委託することを開始する一方、玉野は国勢調査および事業所統計調査のメッシュデータを使った再現を試みる。また嶋崎・澤口は常磐地域で作成した再現地図(Google Mapを応用し炭鉱関連施設の配置を現在の地図上に再現、大日本印刷(株)に委託)の空知版作成を目指す。
- 救出すべき資料の優先順位づけ 前述の住友赤平鉱関連資料を含め、緊急に誰かが引き取りインデックス程度は作成しなければ散逸してしまう資料群が空知には多い。浮かび上がってきた資料の所在情報をもとに、翌年度以降に、どのような戦略・順番で保存をはかるか優先順位づけを行う。
平成21年度成果報告書
本研究プロジェクトは北海道空知の炭鉱遺産資料を救出統合し、地域再生の一助となるアーカイブ学的成果を産出することを目的としている。諸資料の価値を位置づけるため、国内外の産炭地との協力関係を構築することも重要である。真の地域再生とは、維持費のかかるハコモノを作り続けることではなく、地域の歴史と記憶に基づくソフトと人材を育てることだという基本的信念に基づき、アーカイビングとネットワーキングを通じて、研究・実践両面において新時代の研究を切り拓く。
キックオフ時期としての平成21年度は、地域の全体像を描き、作業の方法論を掴み、ネットワーキングの糸口を作ることを目指した。地域の全体像を描く作業としては、地元自治体が現在持っていない時系列的な地理データを補充するため、①国勢調査メッシュデータによる人口変動図の作成、②地域を限定した炭住変遷図の作成、③幌内炭鉱に限定したgoogleマップ上への炭鉱関連施設投影図の作成、を実現した。さらに方法論を掴むための作業としては、④赤平地区におけるキーパーソンへのアクセスと聞き取りの開始、⑤諸資料の所在情報の確認と先行研究の整理 ⑥主幹校(中央大学)を中心とした資料管理システムの整備、までを行った。これらの作業は来年度も継続され、公開可能なものはweb上に順次掲載される。
ネットワーキングの側面では、別資金も投入しながら8月に空知で、9月にWalesでシンポジウムを開催し、旧産炭地間の協力関係を実質化し、北海道新聞に取り上げられるなど地元の反響も呼んだ。シンポジウム準備を通じて、空知・WalesにおけるNPOや行政、大学との協力関係を築くこともできた。空知シンポジウムの成果は、札幌学院大学の紀要『社会情報』に掲載される。
以上のような諸活動の準備と総括のため、分担者・連携者のほぼ全員が出席する打ち合わせ会を年度内に3回開催し、研究グループ内における目標と課題の共有、理論的深化、来年度以降をにらんだ活動内容の具体化をはかった。博士課程の大学院生4名がコンスタントに参加し、若手研究者養成という意義も大きかったと言える。
平成22年度申請書「研究の目的」
本研究プロジェクトは、①散逸の危機にある空知の産業遺産資料を救出統合し、②地域再生を目指すアーカイブ学的成果を産出する。③平行して国内外旧産炭地の研究者・実践家のネットワークを確立し、次の5年間で本格的な旧産炭地の比較歴史社会学へと移行できる態勢を整える、ことを当初目標としている。したがって本プロジェクトの進展につれ、炭鉱社会の盛衰に関する文書・電子資料が統合され、それにより比較研究と再生実践への枠組み・観点・戦略に関する議論が豊富化され、最終的には一定のアーカイブズが構築されることが期待されている。具体的な作業としては、当該自治体が現在持っていない時系列的な統計地理データの作成、キーパーソンへのアクセス、離職者の所在確認、文書資料の捜索・複写・整理、というような地道な作業が大部分である。このような地道な作業を通じ、地域の歴史と記憶に基づくソフトと人材を育て、他地域とネットワーキングしていく基盤を形成していく。
なお、旧産炭地間の比較を組織化し、海外比較まで射程を持つ研究課題を実現したのは本チームが最初である。これまで産炭地研究は地元大学が間歇的に取り組む傾向があり、その総合化が図られるだけでも意義が大きい。旧産炭地が破産状態にあえぐなかで、緊急性と意義のある取り組みでもある。現地の実践家と様々に協力しつつ、直接社会にインパクトを与える新しい研究モデルでもあり、旧産炭地域のみならず地域再生一般にとってノウハウ・実績・ネットワーキングの面で貢献が期待できる。
平成22年度申請書「本年度の研究実施計画」
上記の研究目的から、(a)資料所在情報の統合・救出・整理、(b)研究グループ自前での(電子)アーカイブの構築、(c)概況の時系列的把握のためのデータの作成、(d)国内外ネットワークの形成と比較作業、などが5年間を通しての課題である。(a)-(c)の3点は、平成21年度に一定の取り組みを行ったが(平成21年度研究実績報告書を参照)、2年目にあたる今年度も地道に以下のような作業に取り組む。(a-h22)キーパーソンやアクセスしてくる関係者との情報交換や必要に応じた資料救出、(b-h22)文書(所在)情報の統合・収集・電子化による電子アーカイブ化の準備、(c-h22)赤平市での元炭鉱関係者生活史調査、及び布施鉄治グループの「1973-83夕張調査」を母集団とした離職者追跡調査。
一方、(d)の目標は平成21年度交付申請書の本欄には明示せず、中期的な目標としていたものである。しかし、ネットワーキングの予想外に順調な進展により、国内旧産炭地間比較(とりわけ空知-常磐-宇部)の準備が整いつつあるので、今年度はこの側面での成果を重点的に追求し、国内で各分担者が調査を進めたのち2011年3月にウェールズで予定されているシンポジウム(於スウォンジー大学)で英語にて成果を報告できるようにしたい。併せて、日本語で書かれた先行研究の紹介もネットワーキングのため重要であることから、日英翻訳に本補助金の一部を振り向けることとする。なお、このウェールズ・シンポジウム、および7月に早稲田大学で予定されている日英合同シンポジウムともに、主として他資金(日本学術振興会二国間事業、早稲田大学学内補助金等)によって賄われるが、ネットワーキングの目的に資することから、適切な一部の費目については本補助金によってもカバーする。
研究成果報告としては、いくつかの学会報告を予定しているほか、2009年9月にウェールズで開催されたシンポジウムの英文原稿や、上記国内旧産炭地間比較の成果、赤平での生活史調査成果などをワーキングペーパーシリーズとして公表することを目指す。また研究チームとして、アーカイビングの中間成果を発表できるホームページを立ち上げる方向で具体的な検討を進める。
平成22年度成果報告書
2年目の平成22年度は、初年度に構築した人間関係資本を元に、具体的なアーカイビングとネットワーキングの作業を開始することができた。
アーカイビングの側面では、年度当初の交付申請書に記述した3項目で成果をあげた。(a-h22)キーパーソン・関係者から資料救出は4件ほど実施した。収集資料のインデックス化を来年度に行う。(b-h22)文書(所在)情報の統合・収集・電子化は、前記の点も含めて来年度に出版できる体制が整いつつある。(c-h22)赤平市での元炭鉱関係者生活史調査、及び布施鉄治グループの「1973-83夕張調査」を母集団とした離職者追跡調査は、夏から秋の時期を中心に述べ60人日程度の集中的な作業を行い、今年度末に中間報告的な冊子を刊行する。
ネットワーキングの側面では、7月に早稲田大学で、3月にWalesでシンポジウムを開催し、国際的な産炭地間ネットワーキングと比較の作業を実質化させている。また前例のなかった常磐と山口宇部地域のキーパーソン交流を支援し実現させることもできた。日本語で書かれた関連文献の英訳作業の準備も進めている。
以上のような諸活動の準備と総括のため、分担者全員が出席する打ち合わせ会を年度初めと年度末に2回開催し、目標と課題の共有と理論的深化をはかった。分担者および大学院生の陣容も拡大しつつあり、若手研究者養成の意義も大きい。